「未知の世界でやれるかやれんかもわからん。誰も手を挙げんかった。そしたらまあ、私に白羽の矢が立った」
力強く描かれた、鮮やかな黄色の大輪の花。まさにその鮮明な色彩が「交趾焼」の魅力。これが無鉛絵具で、そしてこの地で描けると、かつて一体誰が想像出来ただろう。平成10年、食品衛生法の改定で上絵付けの安全対策が厳格化。顔料の無鉛化が求められた。しかし当時、上絵付けの技術は他県と比べて発展しておらず、一からのスタート。さらに鉛が持つ滑りと発色を良くする利点は残さねばならない。
色絵装飾の技術が高い石川県の九谷焼、佐賀県の有田焼などで使われる絵の具の成分を分析。生活のための作陶よりも開発にのめり込み、借り入れまでした。一色の発色を確かめるだけでも何十回と試し焼きをするため窯は悲鳴をあげ、ガサガサに。それでもなお、「土岐の上絵付けの技術を発展させたい」という想いが勝った。3年を費やし完成したのは、色、艶、筆離れ、安全性などを備えた1 1色の無鉛絵具。小川さんは、その一色に、ひと筆に、ありったけの意志を込め、自らの器に鮮やかな命を吹き込み続ける。