土岐市泉北山町。高速道路を降りて、21号線沿いを走ると陶磁器卸業者が集まった商業団地「織部ヒルズ」はある。土岐市で毎年開催される日本三大陶器イベント「土岐美濃焼まつり」の会場でもある広大な敷地には47の商社が集まる。伝統的な志野や織部、そして洋食器などのほかガラス製品などを小売りする、一般客から最も馴染みのあるエリアだ。
金正陶器は、1872年に窯元として創業。3代目にあたる澤田省三さんが商社へと事業を転換した歴史を持つ。敷地内には土岐市における小売り業の先駆けとなったギャラリーを備え、陶芸家たちの品が並ぶ「ギャラリー喜楽庵」と100社以上のメーカーの陶磁器がそろう「姿月窯ショップ」を開いている。
最終顧客は主に大手飲食店。窯元と販売店との間に立ち、コミュニケーションを取りながら商品を届けるのが5代目・澤田敦史さんの役目だ。その“売れる”という基準を見極めるのは、経験だけが頼り。「バブル景気に沸いた時期とは売れるものが変わった。今の人たちは自分の感性に合うものだけを探してる」。
大量に消費される“日常使いのうつわ”。そして、伝統工芸士渾身の数十万円の価値が付く“作品としてのうつわ”。バブル時代には、そのどれもが必要とされていた。しかし、少しずつ変わる需要、購入の基準。本当に必要とされるか、求められているか、を今の市場を踏まえ、見極めることが売り上げに現れる。そうした経験を活かし、陶器まつりやクラフト市、陶芸展などに足を運び、作家やメーカーが並べる品から取り扱う商品を吟味。消費者が“いま” 求めているものを仕入れることが必須となる。
また、卸だけにとどまらず、ものづくりにも力を入れる。「先人が築き上げてきたやきものの素晴らしさを再発見してもらえるような商品を提案したい」と、メーカーの製品や、顧客からの依頼をブラッシュアップ。ショップに置かれている4割は地元メーカーと開発したオリジナル品。
例えば味のある曲線を持つ、真っ白でつるりとした質感の磁器。これをマットな釉薬に変え、金の縁を入れる。「形が優美だったからマットな質感にしたらどうだろうって。釉薬の雰囲気で気品を生み出したくて」。サンプルを作ると約一年をかけて展示会などで反応を見る。評判は上々。形状と釉薬の相性、その品の需要、市場での価格バランスを見据えたものづくりは、さらなる販路を開拓し、新しい利益を生み出す可能性を秘める。
近年は香港などの展示会にも出品。海外の顧客も増えつつある。「例えば、海外ではラーメンの人気が続いてるんだけど、どんぶりは売ってなくて。そういう今ないもの、必要とされるものを作っていかないといけない。新しいものを生み出すことは時間とエネルギーがいるし、売れるという確証はない。でも、できたら面白いかなって」。見えない需要を予測し、現地のライフスタイルに合ったものを一から生み出す。
ものづくりはものづくりのプロである窯元が。市場を見極め、消費者の意見を吸い上げ、作り手にフィードバックするのは商社が。窯元と商社が同じ方向を見て商品開発をすることで、土岐市のやきものの価値と需要を高めていく。「織部や志野など、伝統的なやきものを発展させた産地としての誇りは強みです。美濃焼の技を発展させた、土岐市の力を見せられるものを企画したい」。そんな新たな美濃焼の未来を、澤田さんは考え始めている。