理想のうつわ、自由な創作環境を求めて
皿のリム部分にぐるりと施された月桂樹の文様。互い違いになった二つの葉は均一に見えるが、よく見ると細部が少しずつ異なる。さらに別の皿と見比べてみると、彫りが一枚一枚違う。正陶苑が手掛けるうつわの彫りはすべて手作業で行われている。
平成9年創業の正陶苑。現在、初代・正村寛治さんと祐山窯としても活動する2代目の祐也さんと父子で営む。元々、寛治さんの実家は窯元で、主に商社から注文を受けて業務用食器を製造していた。うつわ作りに人一倍強いこだわりを持っていた寛治さんは、より自由な創作環境を求め、45歳のときに独立。人の手でしか表現できない、手間を惜しまないオリジナルのうつわを目指した。商社からの注文をこなす傍ら、幾種もの試作品を製造し、商社に提案を持ちかけた。しかし、「価格が高い」「量産に向かない」「汎用性が低い」などの理由からなかなか取り扱ってもらえず、何度試みるも結果は同じ。厳しい現実を憂うときもあったが、諦めることなく試作品を作り続けた。