簡単には会得できない技術だからこそ、唯一無二の強みになる
化粧土をかけた生地を針で削り、文様を描く線彫り。泥漿や釉薬を袋から絞り出し、表面に盛り付けながら描く一珍。手描きといっても多種多様な技法があり、それらを会得するには膨大な時間と経験が必要となる。崇さんが目標とするのは、父である2代目の功一さん。御年74歳、この道53年の大ベテランだ。功一さんは、輪状の針金で粘土の平面を削るかきべらや、ミリ単位の細かな線を彫る鉄筆など、加飾に使う道具の一部を手作りしている。「裏の山で採ってきた木の枝を削って作るんです。売り物よりも手に合うからね」。年季の入った道具を手に、今も第一線で活躍する。
「まだ先代にしかできない技法や商品がたくさんあります。筆で松の絵を描く湯呑みなんかがそうですね。一見簡単そうなんですけど、筆の走りや抜き加減が難しくて」と崇さん。誰でも容易に真似できるものではない。だからこそ、それが小さな窯元が生き残る強みになる。一日でも早く習得しようと、妻の真弓さんとともに切磋琢磨する日々だ。