ただそこにあるのに温かい。土と炎から成る美しさを届けたい
丹山窯のうつわを眺めていると、白は単なる白ではなく、青は単なる青ではないことに気付く。土と釉の変化が織りなす、表情の違い。手に取ってじっと眺めていたくなるような温かさのあるうつわだ。「焼成の仕方だけでも全然違う。同じ土とは思えんでしょう」。酸化焼成と呼ばれる方法は、酸素を十分に与えた焼き方で、釉薬通りの色が出せる。代わって還元焼成は酸素の量を少なくして、わざと不完全燃焼を起こさせる焼き方だ。
例えば、織部の緑色は、酸化では緑色が出るが、強めの還元焼成をした場合は正反対の赤色になる。焼成の方法で色合いや風合いを自在に操る事が、陶芸の醍醐味なのだ。「自分の手の内だけではわからないから、面白い」。それは正廣さんがやきものを作るようになって以来、常に感じてきたことだ。赤土だと特に面白いと正廣さんが話す還元焼成は、赤土の場合、鉄分を多く含むため、土の変化がどんどん前に現れ、さらに釉薬の下から土の風合いが覗き、深みに富んだやきものに仕上がる。
「腕の見せ所やね」と正廣さん。焼成が始まると窯の前を行ったり来たりしては、様子を見に行く。「毎回ドキドキしてるのよ。まるで初めて焼く人みたいに」と春恵さん。緊張感と充実感、そして予想外の美しさが生まれる歓びを噛みしめながら、今日も正廣さんは「上手く焼けますように」と窯の前で合掌する。